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映画『虐殺器官』感想/難解な中に強いメッセージ!あなたはどう答えますか?

2009年に34歳の若さで他界した伊藤計劃の小説を劇場アニメ化する“Project Itoh“ の第3弾。2月3日に公開された映画虐殺器官の感想をまとめています。

さてー!

SF大好き、立川あつです。

私は、この“Project Itoh“の存在をサイコパスというTVアニメの中で知りました。気になってはいたのですが、諸々事情があって三作目となる今作からの鑑賞となります。

近くの映画館で公開されていなくて、止むを得ず新宿まで遠征してきましたが十分その価値はあったかなと思える出来でした。

特に、近未来SF的な武器や戦闘装備の数々には度肝を抜かされました。

なんじゃこりゃ!かっこよすぎるでしょみたいな。笑

ただ、正直に告白するなら私には色々難しいところもありました。

というのも、長編小説を2時間に収めている為、背景やストーリーなど少しづつ見る側で補完しなきゃいけない展開があります。

それだけならまだ良いのですが、単純に語彙力が追いつきませんでした。笑

生得的や計数されざるなど、その場で辞書を引きたくなるような初めて聞く単語が出てきてしまったのも自分に対して残念な気持ちに…。

基本的に、本編の予習はしない派なのですが、この作品に関しては原作小説を読んでいた方が楽しめたかもしれません。

※結末に関して、原作とは違うストーリーになっているのか、それとも難しいストーリーを把握できていないだけなのか測りかねています。最後の方に自分の解釈を書いていますが、色んな人の意見を聞きたいので時間のある方はコメントを残していっていただけるとありがたいです。

【作品情報】

  • 監督は、「機動戦士ガンダムW」のキャラクターデザインなどで知られるアニメーターで、06年にWOWOWで放送されたオリジナルのSF作品「Ergo Proxy」では監督も務めた村瀬修功
  • 伊藤計劃の残したオリジナルの長編3作品を映画化する「Project Itoh」の1作
  • 制作を担当していたmanglobeに代わり、新スタジオ「ジェノスタジオ」が製作を引継いだ

これから先、映画本編のネタバレが含まれます。また、内容は批評や論評ではなく、感じたことを書き出しただけのものです。友人と見終わった後に「あーだこーだ」言いい合う時のような軽い気持ちで読んでいもらえると嬉しいです。なお、コメント大歓迎なので気になったことがあれば、是非コメントを残して言ってください!

結末までのハイライト

9.11のテロ以降、アメリカでは自由を制限し徹底的な情報管理をすることで平和を実現していた。一方、世界各地の発展途上国は、内戦や大規模な虐殺が横行する不安定な情勢が続いている。そんな中、世界の紛争地を飛び回る米軍特殊部隊クラヴィス・シェパード大尉に、謎のアメリカ人の追跡ミッションが下る。その男はジョン・ポールという人物でなんらかの方法で世界各国で起きている虐殺を牽引していることが分かっていた。

ラヴィスらは、ジョンが最後に目撃されたというチェコプラハで潜入捜査を開始し、ジョンと関係のあったチェコ語の教師をしている女性ルツィアに接近する。ファムファタール的な雰囲気を持つ年上の彼女に次第に惹かれていくが、同胞の計数されざる者に拘束されてしまう。ウィリアムズら特殊検索群i分遣隊の奇襲によって救出されるも、ジョン・ポールとルツィアは行方不明になってしまう。

その後、インドで虐殺を行っている武装組織にジョンポールが関わっているいることを掴んだアメリカ政府は、捕獲作戦のためクラヴィス率いる部隊を送り込む。圧倒的な火力で本拠地を急襲し、ジョンポール及び幹部を拘束。作戦は成功したかと思ったところで、護送機を襲撃され多くの仲間を失うだけでなく、再びジョンポールにも逃げられてしまう。

しかし、しつこく潜伏先を突き止めるアメリカ情報軍は、クラヴィスに暗殺指令を出す。クラヴィスは単にジョンポール殺すためではなく、ルツィアとの再会を願って無茶な作戦を実行しなんとか2人との接触に成功する。そこで、彼から語られたのはアメリカを守るために発展途上国で意図的に虐殺を引き起こしているという衝撃的な事実であった。

ネタバレ感想

分からないなりにメッセージ性には共感してしまう!

私は、原作小説も読んでいないですし、“Project Itoh“の作品を見るのも初めてなので、自信を持ってこの映画を理解したとは言い難いです。

それでもこの作品が好きな理由は、結末でジョンポールが語る内容のメッセージ性にあると思います。

途上国で内戦や虐殺などの政情不安を意図的に作り出し、母国の平和を実現する。要は、外に飛び火するような余力を奪う為に、悪意を持った隣人には隣人同士仲良く殺し合ってもらうという内容。

私は、ここに強烈なメッセージ性を感じました。

決してこれが正しいというわけではないですが、どこか本音を抉られたような気持ちになったのは私だけでしょうか?

言うまでもなく世界が平和になれば良いですが、現実的に難しい時の選択としてもし自分にそれを実現できたら…虐殺の文法を知っていたら…

正直、ジョンポールの立場を支持してしまっている自分がいます。自分たちの国は、それで平和かもしれませんが、決して平和的な思想とは言えないでしょう。

日本の立場に置き換えて考えてしまったりもします。今も世界中で戦争、争いがありますがそこに積極的に介入していけば、当然色んな形で人は死ぬしテロの標的になる可能性もあります。

ただ、その一国平和主義は世界中で起きている戦争を無視しているだけで、決して平和的とは言えないですよね。

自分たちの国の平和は、世界を平和な国とそうじゃない国に二分することで実現している。虐殺器官がなくともこの内容は、現実の争いの本質を捉えているように私は感じました。

そんな事実をこの映画には突きつけられたような気がします。

ただ、これが現実の世界の本質を捉えていたとしても、正直私には何も答えることができません。

ウィリアムズが言うように、「ビッグマックを食べきれずにゴミ箱に捨ててしまうような日常」のほうが、争いに巻き込まれるよりも大事なように思うからです。

なんといっても武器やガジェットがカッコ良い!

光学迷彩FPSゲームのように視覚内に様々なデータや照準、カーソルなどが表示される演出は、完全に厨二心を撃ち抜かれるものがありましたね。

さすがにナノマシーンなどさすがにオーバーテクノロジーかというものもありますが、人工筋肉を利用した兵器の数々は実際に実現するんじゃないかというリアル感が共存していてかなり見応えがありましたよね。

ドローンに至っては、形こそ違えどもう実現している技術ですしね。

そういったテクノロジーをうまく混在させていたのが、本作の一番の見所だったのかなと個人的には思いました。

正直、ここまで胸熱な近未来的テクノロジーは、ハリウッド映画でも見たことがないレベル。

近々、攻殻機動隊のハリウッド版が公開となりますが、これを超えてくることはないんじゃないでしょうか?

世界観も独特だし、語彙も豊富で難しい…

ストーリー展開としては、起承転結でまとめられる非常にすっきりとした作りになっていたと思います。

ただ、いかんせん世界観が独特でストーリーに入り込むまでに時間がかかってしまいました。

事前知識なしの初見にはかなり厳し目の内容だったように思います。

さらに、語彙的にも日常会話にはでてこないような純文学的なものだったり言い回しに戸惑うし、さらに文学的な知識まで知っていないと分からないところもありました。

カフカ著作に関する内容もちょくちょく出てきます。私は目覚めたら虫になっていた話を学生時代に読んだ気がしますが、その程度の知識ではどうにもなりませんでしたね。笑

勉強不足を思い知らされました…。

冒頭でも書いた通り、生得的や計数されざるといった表現も正直はじめて聞いた言葉です。こうやって、漢字で見るとまだ意味が推測しやすいんですけどね。

劇場で音として聞いた時には、頭の上にクエスチョンマークが浮いた状態になっていたと思います。

これが、小説ならネットで意味や知識を補完しつつ読めるので、普通に楽しめるのかと思います。

映画では描かれていないエピローグに関して

私は、この作品の結末としてシェパード大尉は、ジョンポールを虐殺文法と共に葬り去った。そして、彼がやっていたことをアメリカ国内で告発し、悲劇に終止符を打とうとする。

そういった解釈をしていました。

ただ、このブログで頂いたコメントで原作では全く違う結末が描かれていることを知りました。(ちなみに最近原作も読了したので、今は概要を知っています。)

それは、シェパード大尉がアメリカ国内で虐殺文法を用いた告発を行い、混乱をもたらすという完全な鬱エンドです。

しかし、もう一度振り返って思い出してみても、映画の中ではその終わり方を示唆するような演出がなかったような気がしています。

なので、私は映画では原作とは違った結末を描いたのでは…と考えています。

間違っているかもしれませんが、以下がその理由です。

原作を読み終わってわかったのですが、映画では描かれていない重要な軸が小説にはあります。

シェパード大尉は母親を安楽死させたことや戦場で子供を含めた大量の人を殺してきたことの赦しを求めるようになる。そして、無心論者の彼はその赦しをルツィアに求めて、彼女を追いかけるということです。

しかし、彼はルツィアを失い赦しを得られなくなります。さらに執着していた母親についてライフログを確認しても自分に対する愛情の痕跡を見つけることができなかったことから、自分で自分に罰を与える決断をします。

その決断が、アメリカで虐殺を引き起こすことです。

アメリカが混乱に陥れば、テロを仕掛けるような理由もなくなり、今度はアメリカ以外の国を救えると彼は考えたようです。

この結末につながるストーリーが映画では描かれてないんです。SNSなんかでも、この重要な一連のエピソードが抜けていることが指摘されているんですが、これは原作小説とは違う結末にするためだったんじゃないでしょうか?

以上が、私の解釈です。

難しいなと思いながら映画を一回観ただけなので、単純に私が読み違いをしているだけかもしれません。ただ、映画からこの作品を観た私はこういう結論になりました。

もし、「こういうことだよ!」という解釈がある人は教えていただけると嬉しいです。特に映画で、最後シェパード大尉が虐殺文法を広める原因になるシーンはどの部分はあるのか?というところですね。

レンタル落ちまで待てば何度も観られますが、映画だとそうもいかないので…笑

まとめ

今作は、制作過程において倒産などの紆余曲折がある中で、作られたものであることをSNS等を見て知りました。そういった経緯や既に亡くなっている原作者の方には、素直に感謝の気持ちを伝えたいです。

ありがとうございました。

そして、なによりこの映像表現をどんな文章で書き上げているのかという興味が掻き立てられる作品でもあります。

映像がまだ脳裏に焼き付いているうちに原作小説にあたれば、臨場感のあるイメージを頭に思い浮かべて読み進めることができるかもしれません。

私は、早速原作小説をポチりました!読み終わったらそちらもレビューしようかと思います。

※追記

内容はもちろん、最後の解説が素晴らしいです。著者の伊藤計劃氏はすでにガンで亡くなられているのですが、彼の人となりから病床での様子までが細かくまとめられています。あとがきの解説だけでも読む価値がありますので、是非チェックしてみてください。

“Project Itoh“の作品は動画配信サイトにはまだ出ていないらしい

私は、小説の他に『死者の帝国』と『ハーモニー』のBlu-rayもポチりました。というのも、U-NEXTやHuluといった動画配信で見られればそれが一番良かったのですが、どうやらまだ配信されていない作品のようです。

私は、ホームシアターを作っていてそこで何度も見たい派なので買いますが、必要なければレンタルでも良いかもしれません。

最寄りのTSUTAYAがある方はそれでも良いですが、最近は宅配もやっていて非常に便利になっています。気になっている人は、TSUTAYAディスカスを利用してみてください。