映画『沈黙 サイレンス』感想/本当に160分もあった?っていうくらいの没入感でした
1月21日に公開された映画『沈黙 サイレンス』のネタバレを含む感想レビューをまとめています。今年の劇場鑑賞6作目の映画です。
さてー!
バリバリの無心論者、立川あつです。
大学がミッション系で、住んでいた寮では二週間に一回礼拝があったので、身近にキリスト教があった時期があります。
といっても、恥ずかしながらキリスト教について恥ずかしいくらい何も知りません。
そんなに身近にあったのに?と思われる方もいるでしょうが、今の時代勧誘もされないし感化されるということもありませんでした。もちろん、私だけじゃなくて周りも。
なので、何も宗教的に深いことは言えないので、その点ご了承ください。笑
しかも、キリスト教徒の弾圧に関しては歴史の教科書で習ったくらいで、踏み絵、カタコンベなどテストに出るキーワードを知ってるという程度の知識しかありません。
しかし!
この映画自体は、かなり胸を打たれる内容でした。それは、信仰を持った人たちの強さや弱さ、そして葛藤がこれでもかとふんだんに盛り込まれているからだと思います。
人間味溢れるドラマなので、宗教をテーマとしていながら普遍的な人のあり方をのぞきみることが出来た気がします。
興味がない人のほうが、かえって宗教を信じている人たちの信仰心はどこからくるのかなど素朴な疑問に対する答えに触れられて、新鮮に観ることができる気がします。
ただ一方で、ずるいなと感じる部分も結構ありましたが…。
是非、気になっている人は劇場に足を運んで見てください!
【作品情報】
- 遠藤周作の小説「沈黙」 を映画化した作品
- 『ディパーテッド』『タクシードライバー』の巨匠マーティン・スコセッシ がメガホンを取る
- キチジロー役の窪塚洋介をはじめ、浅野忠信、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮、笈田ヨシといった日本人キャストが多数出演
ネタバレ
ハイライト
江戸時代、キリスト教を禁止された影響で棄教したと噂されているフェレイラ神父の行方を確かめるべく、日本へと向かう若き宣教師のロドリゴとガルペ。2人は旅の途上で知り合ったキチジローという日本人を案内役に、なんとか長崎へとたどり着いた。
日本はキリシタンを密告したものには報奨金を出すほどの厳しい取り締まりを行っていることを知る二人。その中で弾圧を逃れた“隠れキリシタン”と呼ばれる日本人らと出会い匿ってもらう。そこで、全く文化の違う国でも自分たちの信じる宗教で多くの人を救うことができると実感する。
それも束の間、キチジローの裏切りによって遂にロドリゴらも捕まってしまう。棄教を迫るも頑ななロドリゴに対し、長崎奉行の井上筑後守は厳しい拷問、そして処刑を見せつける。次々と犠牲になる信者を前にしてついに、ある決断をする。
ネタバレ感想
踏み絵の演出は、印象的!けど、ずるいぜそれはと思うところ
本作では、最初から最後まで踏み絵をものすごく印象的に描いていました。
っていうか、踏み絵って紙でできた絵じゃなかったんですね。確かに、紙じゃなん度も踏めないか…。
日本人なら「踏み絵」という単語を知らない人はほとんどいないんじゃないでしょうか?
というのも、学校の授業で習うとき必ず「いや、踏んだらいいじゃん?」「俺なら、100回踏むね」などと違和感に耐え切れずたくさんの素朴な意見が飛び交うというのが、あるあるですよね。
キチジローのようにその場では踏んどいて、後で反省すればいいじゃんみたいな。笑
しかし、劇中でも多くのキリシタンが、イエスキリストの顔を踏むことができず処刑されました。
磔にされて、海に入れられる人。
縛られて生きたまま火あぶりにされる人。
いきなり、首を切られる人。
動けない様にされ、海で溺死させられる人
逆さ吊りにされて、首から先を穴に入れられる人。
かなり残虐なやり方での、拷問・処刑が行われていました。正直、見ているだけで目を背けたくなるレベルです。
そうなることが分かっていても、信じている神様を裏切れない多くの敬虔な信者たちがいた…ように描かれていましたが、私は正直ここら辺はずるいなと思いました。
いや、はっきり言います。この描き方はずるいでしょ!
絵を踏めなかった人たちは、神様が尊かったからではないと私は思います。
宗教の本質は、不安を煽りそこに救いの手を差し伸べて、人を取り込んでいくということです。キリスト教も例外ではありません。
天国に行けるのは信者だけで、棄教すれば地獄に落ちるというのは王道の宗教的な教えですよね。
つまり、キリストの顔を踏めば自分は地獄に落ちると信じていたから踏めなかったんです。この映画では、この点がすっぽり抜け落ちてしまっていました。
弾圧に屈せずに、信仰を守るというと確かに聞こえが良いです。
ただ、当時の農民は知識とは切り離された人たちだし、当然聖書を読むことすらできません。キリスト教についても実際はほとんど知らなかったというのが本当のところでしょう。
小松奈菜ちゃんが、「(キリシタンのまま)死んで天国に行けることは良いことなんじゃないですか?」とパードレに尋ねるシーンが印象的でしたよね。
生きているだけで苦しい時代。死んでまで地獄に落ちて苦しい思いをしたくない。それなら、キリシタンのまま死んで天国に行きたい。
穿った見方かもですが、こうやって純粋な人の気持ちを利用して殉教者を作り出す仕組みが宗教には確実にあります。
そして、その殉教者の存在は、生きている信者の信仰心をより強固なものにしていくという性質があるようです。
確かに、神様を信じて殺されてしまった仲間をみて、じゃあ信じるの辞めようじゃ犬死になってしまいますしね。
別に、宗教の種明かし映画ではないので、全部つまびらかにとは言いませんが、地獄に対する表現が少しでもあったらなと残念な部分がありました。
ロドリゴと幕府側との議論が潔い
上では、ちょっとキリスト教の悪口みたいになってしまったのですが、布教する側と幕府側とでちょっとした宗教論争が交わされるのもかなり印象的でした。
つまり、キリスト教が善で、弾圧する側が悪だという価値観ではなかったようにも取れます。
主役のいるストーリー上、ロドリゴ側の視点ではありますが、井上筑後守(イッセー尾形)や通辞(浅野忠信)あるいは棄教したフェレイラとのやりとりで、幕府側の主張を説くシーンもたくさんでてきました。
日本は当時すでに独自の宗教、文化を確立していたこと。統治上、異分子が入り込んでくることは脅威であること。
頑な信仰心よりも幕府側の主張の方が、むしろ合理性を感じられる内容だったんじゃないでしょうか?
これを、カトリックの司祭を目指していたことのある監督が作っているというのが凄いですよね。
宗教をテーマにして描くストーリーというのは、ツッコミを許さないのが基本的なスタンスなような気がします。キリスト教徒なら、誰もが如何に弾圧が残虐なものだったか、日本が酷い国だったかに当然目がいくでしょう。
しかし、この映画ではきっちり弾圧する側の論理も潔く描いていました。スパイス程度ですが。これが、あるかないかで私のなかでは全然評価が変わっていたかと思います。
もしなかったら、残虐な日本人がいかにロドリゴをダークサイドに落とすかという、SFがはじまりそうな安易な内容になっていたんじゃないでしょうか。
この映画を観て宗教の自由をという願いを持つのは当然ですが、一方的な理屈での布教にも問題意識を向けるべきだと私は感じました。といっても、日本ではそういった宗教はカルト扱いですが。
世界的には、まだまだ神の教えは真理だからで思考停止している人たちがたくさんいるでしょうしね。
そういう人たちが、この映画を観てどう感じるのかすごく興味があります。
映画を観た人と語りたいこと
この映画は、観終わった後に誰かと語りたくなるような映画でしたよね。観る人の立場、感性によってだいぶ解釈の変わってくる内容だと思いました。
数人で観に行って、感想を良いあったりすると盛り上がるでしょうね。
私は、映画はいつも一人で観に行くので正直今回は、寂しい思いをしました。笑
ということで、もし友人と観に行っていたらというのを仮定して、聞いてみたいポイントをまとめてみます。
もしあなたがキリシタンなら、踏みますか?
上でも述べましたが、学生のころなら踏むと当然答えますよね。
ただ、この映画を観たあとだと同じように答えられる人はかなり減るでしょう。
正直、私が当時の時代の隠れキリシタンだと考えるなら、踏めません。
理由はいろいろありますが、一番は自分の性格的にかなり感化されがちだからです。笑
人が良いと言うものは良く見えてしまうし、みんなが持っているものは欲しくなりますしね。
まだ、キリスト教が禁止される以前、爆発的に改宗者がでていたのなら自分もとなることは容易に想像できます。笑
もし、ロドリゴのように宣教師側の立場なら、信者になんて伝えますか?
劇中では、ロドリゴとガルペの意見は違っていました。ロドリゴは踏んで良い、ガルペはダメだと。
これは、かなり厳しい選択ですよね。
敬虔なクリスチャンであるなら、踏めということは難しい。宗教的な教えとの一貫性がとれなくなります。かといって、神様は沈黙です。答えを教えてくれません。
難しいですが、天国に行けるということを信じているのであれば、踏んではいけないという答えになる気がします。
メタ的な視点で、なんの責任もなければ当然、苦しい思いをするなら踏んで良いよとなりますが、一応史実に基づくフィクションですからね。
できる限り登場人物に感情移入すると私は、ガルペ寄りの判断をすると思います。
まとめ
160分という全部集中して観るのは難しいほどの長さですが、全然気を抜く瞬間はありませんでした。
そのくらいの没入感で観られる映画です。
自分はこれからもキリスト教を信じることはないですし、心の拠り所としてなにかに信仰心を持つこともありませんが、それでも語りかけてくるメッセージのようなものを受け取りました。
この作品は、かなり原作小説に忠実な内容になっているそうです。
これは、熱が冷めないうちに読まなけれということで、早速ポチっちゃいました。
今作で興味を持った方は、ぜひ原作の方もチェックしてみてください!